2022年11月25日金曜日

もうひと遊び

 勤労感謝の日は一日中の雨。父ちゃんも母ちゃんも、子ども連れで遊びに行くことはないよ、ゆっくり骨休めしなさいっていうお天道様の思し召し。いや、とんでもない。家に居る方が大変なんだよ、子どもってとぼやく声も口をつく。

 私ら爺婆は、遊んでくれる孫もいなくなって、ひっそりと昔の勤労を感謝して過ごした。そうそう、ちょうど夕方に五一ワインの新酒が届くと、電話があった。いいねえ。半世紀ほどのお勤め、ご苦労さんってさ。こんな日に届くなんて、洒落てるじゃないか。

 赤3本と白3本の半ダース。ならば鍋なんていわないで、白なら寿司、赤ならピザ。ピザがいいなとカミサンは言っていたのに、午後になると寿司の方がいいという。どうして? 北本の昆虫観察ついでに植物観察の下見をしてきたカミさんは、お昼代わりにチーズを食べたりしたものだから、胃袋はすっかり西欧風になっちゃって、イタリアンはもう結構と身が言っているそうだ。

 じゃあ、寿司にしよう。私の好みの新鮮寿司魚屋がある。新潟の漁港から直送していると声高だ。家から2.5kmほどのところ。雨が降っている。ちょうど歩いて往復すると1時間ほどでうまいお寿司を買ってくることができる。

 というワケで、買い出しに行く。風がないせいで、傘を差してとぼとぼと歩くのは、心地が良い。人気もないのが、余計好ましい。寿司魚屋は混んでいた。駐車場に入れない車が片側二車線の歩道寄りの車線に長い列を作っている。私は、何と何を買うか決めているから、混雑の中を、ハイごめんよと言いながら、寿司の陳列に向かい、人群れの隙間に割り込んで、お目当ての品をちょいちょいちょいと籠に入れる。醤油やガリ、山葵は勝手に取って行けっておいてある。手が届かない。

「あっ、ごめんよ。ちょとそこの山葵と・・・」

 というと、隣にいた、やはり買い物客のオジさんが

「ハイよ、これくらいでいいかな」

 と適当に摑んで、ぽんと私の籠に入れてくれた。この受け答えといい、摑んで入れる動作のテンポといい、まるで落語でも出て来るみたいに気持ちの良い遣り取りであった。江戸に戻ったみたい。

 会計を済ませ、荷をリュックに入れ、まだ5時にならないというのに暗くなった片側二車線道路の歩道をさかさかと歩き、人気の途絶えた脇道に入ってからはとぼとぼと歩く。水溜まりを避けながら右に左に足元が揺れて、何だか雨に唱うって曲が頭の中で響き始める。

 帰宅すると、ちょうどワインの配達が届いたところ。まだ5時だけど、夕食にするかとワインを開ける。TVはちょうど大相撲の中継をやっている。ニュースは夜のワールドカップ、ドイツ戦の予想や宣伝で浮かれている。カタールの会場づくりで3700人を超える作業員が死亡したのに抗議して、ドイツが腕章をつけてゲームに出ようとしたのを、FIFAが禁じたという報道もニュースになっている。何だFIFAも結構IOC同様に、金権主義なんじゃないか。スポンサーに気遣ってビールの提供はカタールの反対を押し切って実施するとも言う。なんだかねえ。

 そして一日明けた朝、早く起きていたカミさんが「ドイツに勝っちゃったよ」と新聞を見ながら私に告げる。ドイツはすっかり、やる気をなくしちゃったんじゃないかね。それに気づかないで、日本はつい勝っちゃったんじゃないかなあ。それもつまんないなあ。

 サウジみたいに祝日にしてくれと、ねぼけまなこの勤め人がぼやいている。何言ってんだよ。サウジの皇太子が何をやったか忘れたわけじゃあるまい(えっ? そんなこと知らねえよってか)。口にするのも、汚らわしいと熟睡した私は言ってやりたいが、アメリカ・バイデン政権も、彼の皇太子がサウジアラビアの政府の首班になっちゃったから、当面ジャーナリスト殺害のことは問わないとさ。ドイツもコイツも。

 天気は良い。風が少し強い。カミサンを町中の公民館へ送り、車を駐車場に置いて私は、自転車でリハビリへ行く。北風に逆らって自転車を漕ぐ。何のこれしきと思うだけで息が切れる。年をとったねえ。

 病院は静かだが、ひとで溢れている。リハビリ士のお兄さんは手掌の固着した線維をほぐすのにいろいろと工夫をしてくれる。医師はほとんど、そういうアフターケアに関心がないのか、首を傾げるだけ。何となく、回復力を失っているわが体がダラシナイと非難されているように思う。医者よりリハビリ士の方が、遙かにわが身のゲンジツに寄り添ってくれている。これって、何よ。医療って、何よ、と思う。

 帰宅してお昼を済ませ、一泊二日で遊びに行く準備をする。カミサンが長年行きたいといっていた寸又峡。一つは金嬉老事件で名を知った。もう一つは、南アルプスを縦走し、最後の聖岳を下山して20km歩くとこの寸又峡に着く。この行程をカミサンの百名山に付き合って一緒に行ったのだが、生憎というか、うまいことというか、聖岳で一緒になった単独行の登山者が、クルマできているから伊那側に降りれば鉄道駅まで送るよと声をかけてくれ、つい日和って寸又峡はお預けになった。そのリベンジ(?)ってわけ。

 おっ、時間だ。ではでは、行ってきます。 

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