2019年12月19日木曜日

春のような御前山散歩


 昨日(12/18)、晴れの予報に山へ向かった。じつは、先月末に予定していた「熊倉山」の下見を10月に行った。kwrさんとkwmさんがつきあってくれたのだが、秩父線の駅への下山時刻が4時を過ぎてしまった。これでは冬至近くの山としてはむつかしいと判断、急遽、12月半ばに予定していた御前山(の下見)へ行こうとしたのだが、kwrさんが体調を崩し、延期していた。

 この体不調が、じつは、8月の表銀座縦走・槍ヶ岳に登る山行のもたらした余波。律儀なkwrさんもkwmさんも、「トレーニング山行」にしっかりとつきあい、加えて、合間の週にも山へ向かうという鍛錬をした。そのため(と私は思うが)、9月に入って体調が揺れ動き、予定していた山行を行ったり行かなかったりと、その都度の様子を見ながらに変更するようであった。


 そのkwrさん、kwmさんの体調が回復した、また週1ペースで山歩きをしたくなったというので、当初予定の御前山山行を昨日実施したわけ。mrさんが加わって奥多摩駅へ向かった。kwさん夫妻は車で来て、駅前で待っていてくれた。電車組を拾って奥多摩湖畔に行く。10分足らずで湖畔の駐車場につき、装備を調えて歩き始める。そこへ駅からのバスもやってくる。6人ほどのリュックを背負った若い女性たちが降りる。彼女たちはどちらへ行くのだろう。道路を挟んだ御前山の反対側へ行くと、「奥多摩むかし道」を経て奥多摩駅へ下るルートもある。

 奥多摩湖の水は、このところの雨で白濁している。今朝ほどの霧もはれ上がり、広がる雲間から陽ざしも入って湖を取り囲む山々も山稜の輪郭をくっきりと現している。9時10分、予定通りの時刻に登山口を登り始めた。今日は季節外れの暖かさと予報は言っていたが、肌寒い。kwrさんは羽毛服を着たまま歩きはじめ、途中で脱いで調整している。取り付きから急な斜面。降り積もった落ち葉が、今朝ほどの雨にしっとり濡れてすべりやすい。大きな松の木がぽっきり折れて道を塞ぐように倒れている。その折れ口が生々しい。

 1時間ほどでサス沢山940mに着く。奥多摩湖の展望台が設えられている。
「あっ、あれが大菩薩嶺だ」
「その右が黒川鶏冠山だね」
「あの向こうの頭がちょこんと見えているのは七ツ石山だね」
「雲取山から鷹ノ巣山へ下る途中にあるやつだ」
 と、高い雲の下の奥秩父の山々を眺める。
「バスクリンみたいね」
 と湖の色をmrさんが評する。

 前方に惣岳山が見えてくる。その手前でダケカンバの木が幾本も白い木肌をみせて立っている。kwmさんが「もう、そんな標高なんですね」といったので、そうだ、奥日光では1500m以上のところでしかダケカンバは育たなかったと思い出す。高度計を見ると1300mの北側斜面。条件によっては、この程度でダケカンバかと思う。

 その左側に背を伸ばしているのが御前山だ。稜線上の倒木が目に付く。kwmさんが「惣岳山って、高水三山にもあったよね」と話す。「はて?」と思い出そうとするが、はっきりしない。ちかごろモノやヒトやコトの名前が思い浮かばないことが多くなった。そのコトの周辺的な印象はぼんやり浮かぶのに、本体がぼやけたままだ。「岩タケ石山」と聞いて、そうだ、「茸」って文字を使かった山があったなと思うという具合。いま昭文社の地図を見てみたら、「高水三山」とともに「惣岳山756m」と、標高も記している。だが今日上っている惣岳山には国土地理院地図にも標高が記されていない。向こうさんの方がご本家ってわけか。因みに「茸」というのをなぜか私は、タケノコのイメージで覚えていた。違った。草が繁る様をあらわしているという。どうして、どこでこのような間違った記憶をとどめていたのか。まあ、どうでもいいことと言えばいいことかもしれないが、案外、わたしの根底的なモンダイに通じているかもしれないと、振り返る。

 惣岳山着、11時25分。2時間15分。コースタイム2時間半よりも少し早い。kwrさんのペースがいい。ここまでの上り斜面が厳しかったとmrさんはぼやく。ここを下るのはいやだなあと何度も繰り返す。だが今日は、上りの標高差約850m、下りの標高差約1000m。彼女は、上りのきつさから推して、下りの恐ろしさを考えているみたいだった。kwrさんが「そんなことは考えてもしようがないよ。その場になってから緊張すればいいんだよ」と、励ましていた。

 冬枯れの木立の間から御前山の姿がよく見える。少し下り、「体験の森」への分岐を左にやり過ごしてまっすぐ上ると、御前山山頂1405m。11時45分。2時間35分。コースタイムより20分も早いが、皆さんくたびれた様子はない。ベンチがいくつもあり、単独行者が休んでいる。お昼にする。上空に雲が厚くなっているが、北側の山並みはくっきりとみえる。背中から陽ざしが差し込む。
「あっ、虹だ」
 とmrさんが声を上げる。
「えっ? どこどこ?」
「ほらあ、あの緑のところにかかってるじゃん」
 と指さして声を大きくするが、北側の山肌の常緑樹の緑がみえるばかり。しばらくしてまた、mrさんが虹だと声を上げ、ややや、みえたみえた。ヒノキかスギの森をバックに、うっすらと虹の七色が起ちあがり、半円の頂点のあたりで消えているのがみえた。

 雨が落ちてきた。雨具を着る。上って来た一組の夫婦が、山頂標識にタッチしてすぐに下山にかかる。おや、どちらへとkwrさんが声をかけると、雨具を持ってないもんだから降ります、という。今日の予報で雨なんて聞いてないよと付け加える。そうだそうだと、聞こえないだろうが気象庁の予報官に文句を言うのに同調する。山頂手前のベンチで別の単独行者がお昼を広げている。結構な人が登ってくる。さすが御岳三山の最高峰だけのことはある。

 ゆっくり山頂で30分ほどを過ごし、下山にかかる。12時15分。すぐに着たままの雨具で汗ばむ。雨は上がっているし、東側斜面になったからか、風もやんだ。トレイルランナーが駆け上がってくる。彼はまたすぐに駆け下りてきた。どこかに車を止めて、往復しているらしい。大岳山への分岐で「奥多摩駅→」への道をたどる。急な下りというような気配がない。「全部」こんな調子ならいいのにね。そうはいかないかも」と相変わらずmrさんは先を煩いながら降りている。避難小屋と地図に記された地点には、ずいぶん立派な山小屋があった。東側が大きいガラス張りという、避難小屋としては珍しいつくり。「奥多摩都民の森」と名づけられた山の領域を通るルートは、大きく山体に沿ってジグザグに切られ、落ち葉が散り敷いて快適だ。随所に絵地図が掲出され、奥多摩駅へのルートが記されている。kwrさんがずいぶん調子よく降る。

 青空がみえてきた。50分ほどで舗装林道のようなところに出た。その先に東屋があり、トイレも設置されている。なるほど山小屋とこの東屋の間が「都民の森」ってわけか。その先の栃寄の大滝へのルートは、「小橋崩落のため危険 通行できません」と掲示されたロープが張ってあって、通れない。そのあとは舗装林道を歩くことになった。南側の山体の斜面全部の木が伐採されたばかりなのか、西からの日が当たって、明るい。だが、こんなに切ったんじゃ、崩落するんじゃないかと心配になる。空の青みが多くなる。枝の切り払われた大木がポツンと立っている。山中に集落がある。いかにも林業を生業にする杣人の棲むところって感じだ。

 向こうに橋がみえ、走る車がバス道路の近いことを教えている。バス停着14時10分。山行計画で私が想定した到着時刻ピッタリ。これはkwrさんの歩くペースが、休憩時間をふくめてコースタイム通りに近いからだ。出発して5時間。歩行時間約4時間半。車で来たkwrさんたちは奥多摩湖行きのバスに乗る。わたしとmrさんは奥多摩駅へのバスに乗る。ここで別れた。山頂の雨がウソのように思える。春のような御前山の散歩であった。

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