イセキさんがプロジェクターで写していたパワーポイントのファイルを、送ってもらった。じつは、当日のスクリーンに映し出されるそれの文字は、年々目が悪くなっている私には読み難く、大雑把に、図示していることとか、大きな文字の見出しくらいしか解読できなかったので、seminarが終わったときに、お願いして送ってもらったのでした。
pdfにしてくれたそれをみると、細かく鋳物師の伝来も記され、青銅の作り方が朝鮮から伝わり、日本独特の製法になったようなこととも、伝来の時期をつけて記してあった。そういえば、秩父で見つかった銅鉱石から最初に和同開珎と呼ぶ通貨をつくったと、昔日本史で教わったではないか。また、愛媛県の別子銅山では戦後しばらくまで銅を算出していたし、玉野市の日比精錬所は銅を精錬して排出ガスで近隣の山を禿山にしてしまっていたではなかったか。つまり銅は、日本の伝統的金属精製のお家芸だった。その由来をイセキさんが話してくれていたわけだった。
また、ふいごが地下に設えられていたように書いたのは私の勘違い。ファイルの図示ではちゃんと地上の、溶解炉の両脇にそれらしきものが記されている。「もののけ姫」の動画は室内であったから、私が地下と勘違いしたものであった。
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パワポのファイルには「3.現在の製鋼 1)高炉、2)転炉」の説明がある。みている私の関心は、例えば2000度を超える高熱で溶けた鉄を入れている転炉の容器は、どんな材質でつくられているのかと横路へそれるが、それはみな棚上げしたまま、次へと展開する。
「4.現在の鋳鉄の製造」では、「1)キューポラ」「2)電気溶解炉」が分解図と写真付きで「3)造型、鋳込み」について、「非量産部門」と「量産部門」にわけて、つくる製品の事例をあげて説明している。
イセキさんは「キューポラは、高炉とは違う。CO2煤煙が出る。今は電気炉。キューポラと電気炉とどう違うか。薪と電気釜とではどちらが御飯は美味しいか」と話しを具体性に落としてつづける。キューポラと聞くと、映画「キューポラのある町」、吉永小百合を思い出す。学生のころだったか、いま住んでいるすぐ隣り町の川口が舞台。中学卒で故郷を出て働いていた「金の卵」の物語であった。だが、そのキューポラがどんなもので、内部構造がどうであったかなどは、まったく印象に残っていない。後に、川口に生まれ今も住んで居る友人がベーゴマの話をして、そうかあれも鋳物かと気付いた程度。知的な偏りというものが、具体性を欠いてすぐ普遍性に拠りついてやりとりしてきた歪(いびつ)さを感じさせる。いや、お恥ずかしい。
また、「5,鋳物の種類と用途」として、鋳鉄、鋳鋼、アルミニューム合金、銅合金、その他にわけて、用途例が挙げられている。
イセキさんは「電気用回路について、篠山の、30トン兵庫県M社を示しながら、型を作って流し込む、造型と鋳込み。砂で型を取り流し込む」と話し「鋳鉄は、輸送機械や産業機械、鋳鋼、アルミ合金、銅合金、その他ニッケル合金、チタン合金」と鋳物がどうや轍そのものだけでなく、種々の金属の合金によって製品の品質と材料の関係が多様になってきたことを明かす。
それらを一つひとつを聞いていると、日本の産業に占める鋳物業の幅広い領域が目に浮かぶ。そうした具体性を欠いたまま、生産とか市場とかに焦点を当てて経済関係を論じ、生産性や需要や供給を云々し、多品種少量生産などと言っていたことが、これまた可笑しい。まるで金回りだけに光を当てて企業経営を考えているみたい。金融資本のカネの部分だけをシホンと考えて論じている経済学者のようだ。浮世離れしている。
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それらを前提にして、イセキさんの話しは、現代社会における鋳鉄製品の製造と競争の現状へと続いていく。
「6.日本の鋳物の材質と精算材料」はまず「1)材質生産比率2019年」を紹介する。
鋳鉄鋳物が64%を占める。ダイキャスト21%、軽合金9%と併せおおよそ95%になる。ダイキャストというのは、「アルミニウムや亜鉛、マグネシウムなどの合金を高温で溶かし、金型に流し込む鋳造法の一種」をいう。
「鉄鋳物の半分は自動車。アルミが増えている」と2019年の統計をみせる。「コロナで生産はがくんと減った。素材の需要が減るのも、また遅れる」と経済活動の一端を垣間見せて「鋳物生産は景気指標のバロメータ、64%が自動車産業が占める」。
「2)銑鉄鋳物用途別製品比率:2019年」は、自動車64%、産業機械器具14%、その他一般・電機品9%、金属工作・加工機械3%などであった。イセキさんがかかわった1970年代からの変遷を考えると、占める業種に大きな変動があったであろうが、その辺りを話している暇はなさそうだ。
そして、「中国が生産はダントツ。インド二位。米国3位。日本は4位、ドイツ5位」と鉄の鋳物生産に占める割合を順位付けする。
「7.世界の鋳造品の生産量上位10か国」の表が状況をよく示している。1位……中国49.,000トンほど、2位……インド13,000トン、3位……アメリカ11,000トン、4位……日本5,000トンなどである。鉄製品の生産量が工業生産の実力を示しているとすると、まさに今世界は、中国によって差配されようとしている。
イセキさんは「溶鉱炉は火を止めることはないが、新日鉄も住金、神戸製鋼も、いま、高炉を止めている。生産量を落としている。中国がいま懸命に製鉄技術で追いつこうとしている。世界トップ。インドがそれに続く」「日本は2、あるいは3位。薄い鋼板を作ったりしている」と、製鉄技術の面でアドバンテージを日本がとっていることを匂わせる。
いろいろな製品にその技術が生かされていることを、いくつかの写真を使って説明した。「景観鋳物」という珍しい言葉。道路を飾る街灯や道路標示、ランドマークというにはちょっとした小さい、地点表示のメルクマールのような置物など、なかなかお洒落でアーティスティックな作品がある。そう言えば、1990年代、日本の国内需要を増やせとアメリカにせっつかれて、600兆円という莫大な額の国内需要創出を約束したことがあったっけ。そのおかげで、町の通りはタイル張りになったり、歩道が広がって電線が消えたり、歩くこと自体が目の保養になるような街並みに変わってきた。そういう変遷の、切り出しを担っていたのかと、イセキさんの仕事を思い浮かべた。(つづく)
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