1年前のブログに「じかに目を見つめ合う「かんけい」」をアップしている。
山際寿一『「サル化」する人間社会』(集英社、2014年)を読んだ感想。
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『「サル化」する人間社会』の一番のポイントは、霊長類はアナログが本質ってことだ。人類に限らず、ゴリラもチンパンジーも、コミュニケーションというのは、じかに触れるもので交わされなくてはならないという一言に尽きる。
ゴリラは目をのぞき込むように見つめ合って、共感性を自らの内部に湧き立たせていく、という。(今の)人は直に目を合わすことを避ける。それは山際寿一によれば、たぶんに近代的な「サル化」した人間社会の、もたらしたものだという。ゴリラと違ってサルは目を合わすのを避ける。それは「ガンをつける」「がんをとばす」という喧嘩の作法に含まれる挑発行為。つまり、「かんけい」に優劣を持ち込み、その決着をつけるのが、その目のうごきだ。「目をのぞき込む」のは、優劣を含まない「かんけい」において、有効に作用するコミュニケーション手段だというわけである。
わかるだろうか。群れのボスゴリラに対しても、目をのぞき込むようにする子どもゴリラは、じつは優劣とかを感じていない。彼らの群れに、そのような「かんけい」がない、という。
これを知って私は、中動態という言葉を想いうかべた。原初の頃のことばには、じつは優劣や高低、勝敗という価値的な意味は含まれていなかった。それが時代がすすむにつれて、ひとの「かんけい」に価値的な善悪や良否が含まれてくるようになり、モノゴトを価値的に見るものの見方が伴ってくるようになった。
つまりヒトの文化は、ゴリラ時代から現代にいたるにつれて、つねに力関係を身にまとう「かんけい」に終始するようになり、いまやその出発点をかたちづくっていた「家族」ですら、解体して個々人単独の思いが先行するようになり、その結果、「サル化」していっていると山際寿一はみている。
デジタル化の時代に生きている人たちには、なかなかわかりにくいかもしれないが、ヒトとヒトとの「かんけい」は、間接的になってきた。電話もそう、ファクシミリもそう、電子メールもそうだし、インターネット社会というのも、文字通り間接的な「かんけい」である。こうすることで、上下関係や避けがたい優劣関係を、文句の付け所のない必然的なシステムと観念させている。それに適応しようとするヒトの習性が、ますます人間を変質させてきている。そう山際寿一は、みてとっている。
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ゴリラの子どもが、今まさに怒り猛けんとするオスゴリラの目をのぞき込んで、鎮まらせている画像を見たことがある。あるいはまた、2年前のことになるが、見送りに行った成田空港で姪っ子の幼い次女が天真爛漫に振る舞い、わたしの目をのぞき込んできた愛らしさを思い起こす。戯れるって、こう振る舞うことだといたく感じた。
人に限らず幼生自体が、向き合う攻撃者の気分を鎮まらせ、むしろ保護的に振る舞うことを誘い出す。オオカミに育てられた子の話や、大型犬にじゃれつくる子猫の姿も思い浮かぶ。他方で、発情したオス熊が小熊を殺して母熊の発情を促す画像も思い浮かぶ。サバンナで小さい草食動物を襲うライオンやチーターの姿も忘れるわけにはいかない。
ということは、幼生だからというわけではなく、逃げるものを追う、悪意を感じさせずやってくるものには好意的(?)に向き合うという心的習性をもっているのか。あるいは、霊長類や家畜化した動物の特徴なのかもしれない。幼生という実体的なありようがもたらすというよりは、向き相方の関係的な要素が誘い出す習性なのかもしれない。
すぐそれを、人と人との関係や国と国との関係に転嫁するわけにはいかないだろうが、人の築き上げてきた文明文化が、関係的な優劣を礼儀やしきたりとして固定化して、さらに次の段階の安定的秩序として固定化してきたことは否めない。「ありがとうもごめんさないもいらない森の民」と文化人類学者・奥野克己が紹介したボルネオ島のプナンの民は、社会関係として対立抗争することを巧妙に避けるかたちを作り出してきた結果の振る舞いであろう。
そこへ戻れということはムツカシイだろうが、現在の(相争う)かたちが、人類の文明文化が作り出してきたことを意識して、できるだけ中道態的にモノゴトをみていく習性を取り戻していくことを、国際関係にも組み込んでいくことが必要なのではなかろうか。では、どうやったら、それが可能なのか。
政策的には、様々な段階を考えて、ひとつひとつ策定していく必要があろう。だが庶民の側から考えると、社会的な日々の関係で、中道態的なものの見方と振る舞い方を実践していくしかない。カント的にいえば「中動態的実践理性批判」を意識して、我が身を振り返り、人との関係を一つ一つ対象化して洗い直すような心持ちが必要だ。
とまあ、こう言って、このブログを書くモチベーションにしているわけでございます。
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