2022年7月22日金曜日

即興ジャズ・エクリチュール

 我が友マサオキさんから、葉書が来た。「まだ旅行からお帰りになっているかどうか分かりませんが、取不敢御礼まで」と住所欄にある。まずそれを紹介する。

《前略。今便は毎度の「無冠」拝受の枕詞ではなく、マンゴー拝受。遙か南なる宮古島から(通)OAS航空エクスプレスハイスピードなるいかにも生き物の超特急便を思わせる航空便で送られてきたマンゴー、たしかに拝受致しました。こんな結構なもの寔に以て有難うございます。と言って、マンゴーなるものを直に味わったことのない食不通の人間なので、娘に訊ねてみると「え、ええーっ、沖縄からマンゴー!?」とびっくらこいてしばし絶句。無言絶句。ややあって「これ、おじさん(私のこと)は知らないだろうけど、すっごく価値があるものなのよ。滅多なもんじゃないんだから。勿体なくて神棚ものなのよ」と来たもんだ。飲食物に全く以て疎く、謂わば味痴の典型たる私は、「うへーっ、マンゴーってそうなんだ」。そして有り難や賢しやとばかり鬼門の方向2里許りなる井沼方に向かって二拍手一礼を三度繰り返したのであります。その後箱を開けてクッションに包まれている二つの実物大の実物に見入り、馥郁と香る甘い匂いを嗅ぎ、試しに表皮を撫でてみるとぷよぷよと柔らかいおっぱいみたい。これでマンゴーに関し、眼耳鼻舌身意のうち眼鼻身を感知したことになる。あと肝心なるは舌、すなわち味(みー)だが、それは少頃(しばらく)神棚に御坐して頂いて後ということにします。それはそれとしてマンゴーなるものに全く不案内で、今実物大の実物つまり本物に接してその六分の三を実捉できたのだが、因みに国語辞典を調べて知識を補填してみた、疎にして漏らして許りでいるアタマが癖にしている仕業でした。その解意をわが戯作に登場せし長尾教授の「日本草木総覧」風に自家訳してみるとこうなります。

 マンゴオ漆科ニ属セシ常緑ノ喬木也天竺原産ニテ琉球ニ帰化セシト曰フ樹高五丈許葉長楕円形ニシテ質厚ク葉柄長ク互生春円錐様花成レ序開二五弁花一後腎臓形ノ核果ヲ結ブ甘美ナル事比類ナク之ヲ是阿レ謂二醍醐美一唉……。

 いやあ、たしかに見た目と言い感触と言い二つセットになっている所と言い腎臓ですね。これでは彌々腎不全にならないためにもしっかりその醍醐味を賞翫せねばなりますまい。六月末の猛暑といい、史上最速の梅雨明けを宣告しながら、今になってシトシト雨と手の平返したような日本新記録の短時間豪雨と言い天網も乱調にありですしコロナも忽ち第七波の大津波。傘寿が惨寿とならぬようご自愛の程を。保重*!(かさねがさねやすらけく)》

 まるでジャズの即興演奏のよう。葉書一枚の裏と表に、手書きの小さな文字で1400字ほどがビッシリと詰まっている。虫眼鏡を手に持って、このジャズエクリチュールを音にして読み取っている。だが末尾の人文字「*」が読めない。( )内はたぶんこんな意味だろうと推察した。表意文字というのは、こういうときにお役に立つと思っている。

 そして、以下のような返事を認めた。白山羊さんへの黒山羊さんの返書。

                                    ***

ふふふマサオキさま

 嬉しいお葉書、頂戴しました。

 思いがけぬ即興演奏「マンゴーづくし」のjazz-écriture、ありがとうございました。面白く音読しています。腹を抱えて笑いながら、「贈った甲斐があったわね」とわがカミサンは悦んでいます。因みに、「マサオキさんはほんとの物書き」とも。

 宮古島はバーダーたちの羨望の土地。この旅をコーディネートしてくれたのは石垣島や宮古島、沖縄本島などを何度も訪れ、知り尽くした探鳥の専門家。

 ひょんな縁から師匠の「くっつきの尾」として、あちらこちらの探鳥に連れて行ってもらっている私は門前の小僧ですが、やはり宮古島もはじめて訪れる土地。どんな人たちがどんな風に暮らしているか興味津々。門前の小僧にとって鳥はおまけです。ははは。

 同行するのは日本野鳥の会**支部の代表とわが師匠であるカミサンと私。もちろんコーディネートしてくれた専門家も一緒の、わずか4人という絶好の規模。門前の小僧からすると、その道の雲上人。しかも今回は、宮古島のことはわが掌(たなごころ)を指すように知り尽くした石垣在住の鳥カメラマン。この方は、これまでにも石垣島や与那国島をガイドしてくれた石垣島の牛飼い。どちらが片手間なのか分かりません。石垣島のカンムリワシやアカショウビンその他の写真集を何冊か発行している、野鳥のお友達。石垣島や与那国島、西表島と今回の宮古島などを私は、この方の「自然観察動植物園」と呼んでいるほどです。今回はガイドを予定していなかったのですが、たまたま他の団体の宮古島探鳥案内の最終日と私たちの最初日が重なったため、宮古空港で(ばったり会って)3泊4日の全日程を付き合ってくれました。

 私以外の方々は宮古島を何回も訪れていて、なおかつ、オオクイナの出没する森の池やヒメクロアジサシなどの棲息する岩礁の海へ小さな漁船を出して観察するというスリリングな旅も入っていました。でも私は、宮古島の地誌的な風物に気を取られ、その合間にはじめてみる鳥の美しさに見惚れていた次第です。

 たぶん宮古島などは最初で最後になると思い、特産のマンゴーをお送りした次第。私にとっても冥土の土産です。

 今月も世の中はいろいろとありましたね。でも、何よりコロナウィルスの第七波の感染拡大が特筆ものです。埼玉県も今日、1万人を超えました。ウクライナの戦争も、安倍元首相の銃撃事件も、霞んでしまっています。

 しかも、もう打つ手がない。専門家会議のオビ何とか会長も「御注意ください」と言うのが精一杯。手の施しようがないといわんばかりです。千葉県知事が「濃厚接触者のチェックをしない」と発表しました。チェックをすると自宅待機になって仕事に行けない人が多くなりすぎるというのですが、これって、何処か倒錯した施策ですよね。コロナウィルスの法的概念を変えないから地方の首長としては、こうやって悲鳴を上げるしかないのかな。とほほ。

 政府も、お手上げ。死亡率の高いインフルエンザという扱い。でも法的あしらいを変えようという動きがないのは、エリートお役人の性か。ひひひ。

 案外この程度のいい加減さで人類ってのはここまで来たのかもしれません。だからウクライナで何がどうなっていようと、香港や台湾がどうなろうと、わが身に降りかかる火の粉にならない限り平気の平左でやっていく。へへへ。

 自助しか手のない市井の私たちには季節を問わない、ちょっと年寄りには死亡率の高いインフルエンザって感じかな。どうしたものか考えはするものの、なるようになる、なるようにしかならない。成り行き任せ。彼岸への直行便にも恐れず向き合いたいものです。

 とはいえ、死に急ぐ必要もありません。運を天に任せて、のほほんといきましょう。

 マサオキさん、勝手にさっさと行かないでくださいね。ほほほ、ほんとに。

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