2020年5月13日水曜日
PCR検査の現実と実効再生産数
5月14日に「緊急事態宣言」の緩和とか解除を控えて、地方自治体が「判断基準」を公表したり、緩和・解除後の「ウィルスとの共生」の方法をいろいろと思案して提起している。 たぶんその判断の一つになるのが「実効再生産数」だと山中伸弥教授が「新型コロナサイト」で取り上げている。
「山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信」と題された彼のサイトで、5/10、「実効再生産数(Rt)の計算を試みました」とコメントをしている。「専門外の私が…計算した」と断る自身の位置づけが好感をもたらす。海外の専門家の計算式がエクセルシートに入力されているため、それをダウンロードし、感染者数の推移データは、大阪府、北海道および京都市のホームページからダウンロードして入力し計算したと計算過程を示す。一人から何人に感染したか、その広がりを示す「実行賽銭算数」が1未満を維持することが、緩和や解除の目安になる、と。そうして「大阪府民である私から見ると、大阪府のRtが4月21日に1を下まわり、5月1日現在で0.6程度という計算結果」としめして、「府民の努力が報われているようで嬉しく思います」と感懐を綴っている。
こういう指標を提示されることが、自ら禁足している私たちにとっては「希望」につながり、行政への信頼につながるのだと実感する。山中教授はしかし、北海道の計算はしているが「東京では、新規感染者を見つけるための検査数の実態を知ることが出来なかったため、Rtの計算は断念しました」と記す。つまり東京都は感染者数とその広がりを示すデータをつかんでいない。東京都は昨日、感染数の111名の報告漏れがあったと報告している。
そうして、「誤解」があったといったことで厚労大臣が非難を浴びている国会に目を転じてみると、厚生労働省が「PCR検査の結果を全然掌握していない」ことが明らかになっている。厚労省自身がメディアの報道や自治体のホームページからデータを拾っているとも大臣が回答している。どういうことだ?
私はすっかり日本の感染症を含む医療体制は厚生労働省が中央集権的に握っているものと思ってきた。ところが実態は、承認や規制の手綱だけはにぎっているものの、医療の実施や問題の掌握は各地の現場に丸投げされている。つまり、上意を伝える伝声管はもっているが、下意を聞きとるチャンネルはまったくもっていないと白状したわけだ。そのため、今回のような事態に政府としては対応できないのだ。全国ネットで感染の情況をしっかりつかむ方法を具体的につくっておかないで、「緊急事態宣言」をして「外出自粛」だの「営業自粛」だのと号令をかけても、どこでそれを緩和したり解除していいのか、困るのはあたりまえだ。まずそう思った。
はじめ、「(患者が押し掛けて)医療崩壊が起こっては困るから」とか、「流言飛語が広がっては国民が混乱するから」といって、PCR検査の数を意図的に抑えているのかと(私は)思っていたが、どうもそうではないようだ。PCR検査をする手順を定めて置けば、制度設計は終わったくらいに厚労省は考えていたのだと思うほかない。
昨日(5/12)の東洋経済onlineに、「PCR検査せよ」と叫ぶ人に知って欲しい問題――ウイルス専門の西村秀一医師が現場から発信」という記事が載った。大崎 明子(東洋経済・解説部コラムニスト)がインタビュー。国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター長という肩書の西村秀一の回答は、PCR検査がどういうものか、薄皮をはがすように伝えるものであった。
PCR検査を個人が感染しているかどうかをチェックするために行うのは、意味がないという。陰性、(偽陰性、疑陽性、)陽性というのがわかって、どうするのか。陽性の人は治療を施すことになるが、それ以外の人のチェックをするための試薬を無駄に使うほど、余裕がない。
でも、PCR検査をすることによって、感染の広がり状況をみてとることはできるじゃないか(と私は思う)。それをつかむことによって、規制や自粛要請の緩和や解除をするかどうか、判断の目安になるんじゃないか。
つまり、だれでもかれでも検査しろというのではなく、発熱とか喉の痛みとか臭いの劣化や味を感じなくなるなどの症状がでたら、検査をするようにすればいい。それを、保健所がなかなか受け付けようとしないのは、どうしてなのか。
西村医師は、検査技師がいないというのだ。TVなどで簡単にできるように発言している医師などは、検体の採取のことしか考えておらず、腹が立つとまでいう。検体の検査にあたる地方の検査技師のことを考えていない。かれらのことを下にみているからじゃないかという。彼らの持っている技能は、容易に養成できるものではなく、専門性と熟練が必要である。根気と技術力とキャラクターが必要だというのだ。検査崩壊になると指摘する。
でも全自動の検査機器があるじゃないか。それに対して西村医師は、よく使われるヨーロッパやアメリカの機器類は入ってこなくなっている。今は収まっても、秋冬の第二波第三波を考えると、すぐにでも充実させなくてはならないと思うが、関係当局がそれをどのように考えてくれているか不安に思っているようだ。また、全自動ということが「独り歩きして」、「医師を含む一般の人が無謬検査のような印象を持つ」ことを懸念している。
抗体検査とか抗原検査というのも、検査を必要とする人たちの優先順位を考えて、上手に行っていかないと、結局どこかで息詰まる事態になると心配しているようだ。メディアを通じて謂われていることと、こうした専門医師が現場から発言していることとどう勘案すればいいか、すぐにはよくわからない。いつでもとりあえず私たちは、マスクをして、他人にうつさず、人からうつされないように距離をとって人と関わり、基本的に公共交通機関を使わない暮らしを、当分の間、つづけるしかない。
不要不急ばかりではないこともあるから、遠方へ出かけなければならないこともある。そういうときは、命がけで出かけるしかない。幸運にも感染しないで過ごすことができれば、ラッキーだったと、世の中に感謝しましょう。そう考えて、日々を過ごしている。
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