2020年5月31日日曜日

日頃が日頃だから、ザンビアの反乱


 中国が香港の締め付けをはかる「国家安全法制」を決めたことに対して、アメリカのトランプ大統領が「香港優遇策を撤廃する」と発表した。抜き差しならない「関係」に突入するような気もする。だがわからないのは、トランプさんの方。
 彼は本気で、香港の自由や人権を考えているのかね。中国が香港の締め付けを強化しようと考えていることは、疑いない。彼らは共産党独裁を維持するためにも、香港の自在さを公認しておくことはできないとみている。たとえ50年とは言え、自由社会の自治的な運営を香港が「共産党独裁・中国」に見せつけ続けるとしたら、「国内問題として」捨て置けない「世論」が熾火のようにくすぶり続け、いつ発火するかわからない火種になる。ウィグル自治区への強圧的な「民族浄化的な弾圧」も、それゆえに、そこまで過酷な事態に行ってしまったといえるからだ。もちろんすべての事実は(国内問題であるとして)「極秘匿」のままである。

 
 中国は(香港問題は)国内問題である、アメリカは「内政干渉している」とトランプに反撥している。この「内政不干渉」という理念自体、帝国主義隆盛の頃に植民地が独立していく時代の、いわば植民地・途上国がわが身を護るために帝国主義・宗主国に突き付けた理念であった。
 その理念を用いて、「一帯一路」というかたちでいままさに世界帝国として覇権を宣言している中国が、(「内政干渉」として)他国からの批判を斥けようとするのは、まだ中国自身が、植民地時代の感性を抜け出せないままに、理念を反故にしている滑稽さを表している。まさに、前時代の遺物。でも今、こういう指摘をしても、「中華帝国」は聞く耳をもたないでしょうね。
 
 じつはトランプもそうだが、習近平も香港の経済的価値を秤にかけて、押すか引くかを算段している。香港が自治的な領域と認められなければ、貿易に関する、金融取引に関する(先進国としての)優遇措置を受けられない。それが、香港トンネルを通して世界経済に位置を占めている中国にとって、どれほどの痛手になるか。アメリカにすると、香港に投資、あるいは進出している米国企業の撤退を促す結果になる。あるいは、中国の製造に依存する米国社会の「地球規模」の膨張経済が縮小を余儀なくされる。つまり双方が、経済問題で争っているんだと認める限り、妥協する着地点を探ることは見通しがないわけではない。
 
 だがそのとき、香港の自由と自治は、どうなるか。むろん、トランプさんにとっては、第二義的な「課題」である。まして、11月の大統領選挙目当てのパフォーマンスとあっては、香港の自由と自治は、第三義的、第四義的と順位が下げられて、いずれ何処へ行ったかわからないあしらいになりかねない。とどのつまり、ウィグル自治区の人たちが受けているように、あるいはチベット自治区とそこを追い出された人たちがとっくに手を出せないでいるように、見放されてしまいかねないのだ。
 
 つまり、トランプのアメリカはすでに、自由や人権を語る「理念」も、ビジネスの取り引き材料に過ぎなくなっていることが、日ごろの言動で明らかである。
 古い理念を持ち出す習近平さんの中国が果たして、これをビジネスとみていくかどうかは、わからない。文民統治が利いているのかどうかもわからない人民解放軍などは、そういう商取引的センスを断ってでも「国民国家」的な独立自尊を堅持するであろう。一帯一路という世界制覇を争っているという「理念」こそ、彼らの心を震わせ、行動の瞬発力を引きだす力になっている。そう考えると、中国が、「妥協する着地点」を見いだすように動くとは、容易にいえなくなる。
 
 日頃が日頃だから、トランプを真に受けると、香港市民は(ほぼ間違いなく)裏切られることになる。では、イギリスも加わっている国連の安保理などは、どれくらいの力を持つことになるだろうか。「国際世論」という(これ自体何を指すのかよくわからないこと)のが、どれほどの「ちから」になるのかわからないが、せめて「世界の良識」に呼び掛けて、自由と自治の理念を甦らせなければならないのかもしれない。
 そこへ飛び込んできた、ザンビアの「中国企業幹部3人の惨殺」という報道。ここも、日ごろの振る舞いが我慢の限界を超えてしまっていることを伝えている。習近平さんばかりでなく、外国人労働者を受け入れている安倍さんも、マルチチュードの反乱が、人間をないがしろにする文化の綻びから発生することに心配りをしなくては、人間社会の総体を語る資格はないと、考えくださいな。

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