いま読みはじめた本で、ちょっと驚いたことがある。カート・アンダーセン『ファンタジーランド狂気と幻想のアメリカ500年史』(東洋経済新報社、2019年)の第一章「「ファンタジーランド」と化しつつあるアメリカ」。
ジョージ・W・ブッシュ政権の黒幕と言われたカール・ローヴが口にした「現実ベースのコミュニティ」という言葉。
「現実ベースのコミュニティにいる人々は、思慮分別をもって目に見える現実を検討すれば解決する策が生まれると信じている。だが、世界はもうそんなふうに動いていない」
と言ったという。そして1年後に「コルベア・リポート」というコメディ番組が始まったそうだが、そのなかの「用語解説」というコーナーで右派の大衆迎合主義者を演じるスティーヴン・コルベアが「トゥルーシネス」という言葉(「証拠や論証」に拠らず直観的にある事柄を真実だと信じることを指す)を紹介し、概要、こうと解説していたそうだ。
《そんな言葉はウェブスター辞典にないというでしょ。でも辞書や参考書はいわばエリート。何が真実で何が真実でないか、何が実際に起き、何が実際に起きていないかを、絶えず私たちに教えてくれます。しかし『ブリタニカ大百科事典』にパナマ運河が1914年に開通したと言う権利があるのでしょうか。私が1941年に開通したと言いたいのなら、そういうのが私の権利であるはずです。……本は事実ばかりで、心がありません。……現実を見てください。わが国民は分断されています。……頭で考える人たちと心で理解する人たち。みなさん、真実は直観から生まれるのです。》
ハハハ、いやはや、コメディ番組と前振りがなければ、なんだこれは、トランプ現象の先取りではないか。そう思ってしまうところでした。トランプさんは二番煎じだったのですね。知らなかった。知っていれば、まるごとコメディと受け取って、本番さながらに現実を舞台に演じてみせているトランプさんや、そそくさと駆けつけてゴルフクラブをプレゼントする安倍さんの演技を、声をたてて笑うことができたのにと、思います。
この人、何者?
作家のようですね。評論家でもあり、ラジオ番組を製作したり、TVや映画、舞台の脚本も担当したり雑誌の編集長をしたりと、八面六臂の活躍をしている方のよう。
何しろこの本の原題は「How America Went Haywire: A 500 Year History」。原書は2017年の発行。「go haywire」というのは台無しになるという意味だから、トランプ政権の展開をまじまじと見据えながら書いたのかと思いきや、そうではない。本書のアイデアを思い付いたのは、冒頭のカール・ローヴの発言の有ったころというから、2004~2005年頃のこと。やはりアメリカ文化の潮流をみていると、コトはとっくに起こっていたのですよということになる。
だとすると、クリントンがトランプに敗れる(かもしれない)というのは、文化の潮流を見ていれば、読めなくはない「事実」だったってことになる。日本は、やっぱり二周も三周も遅れて走っているのだと、肝に銘じました。
えっ? 遅れて走っているのは、お前さんだけだって?
う~ん、そうかなあ。
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