今回の講師はミヤケさん。お題は「電気自動車・水素社会・原発」の3題噺。そう書き始めてから見た、今朝(9/27)の朝日新聞の朝刊の「記者解説」欄は《EV転換 世界の潮流》。まるでこちらの関心を推し量ったような解説記事である。
EUが2035年までにガソリン車の新車販売禁止を掲げ、アメリカは(州による違いはあるが)2030年に新車販売の半分を「排ガスゼロ」にすると宣言している。日本はハイブリッド車で他の先進国の自動車業界をリードしているが、菅首相が2035年までに新車販売をすべて「電動車」にする方針を発表した。記事は、「気候温暖化」というEVへの切り替えの大義名分と同時に、製造業界の覇権争いがあり、同時に、EV化によって業界の雇用が12%ほど減少することとか、他業種が競争に算入してくるという業界事情を紹介している。平坦な道ではないことが分かる。
しかし三宅さんの3題噺は、この「電気自動車」へ切り替える事情の技術的側面を、根っこから説き起こそうというもの。24枚のパワーポイントのシートを用意して、話し始めた。
ポイントは「お題」の通り、大きく分けると次の3点にあった。
(1)EV(電気自動車)とガソリン車、ハイブリッド車のCO₂排出量の比較
(2)水素社会をつくる方法と問題点
(3)期待される高温ガス原子炉の安全性と技術的メカニズム
順次説明していきましょう。
(1)電気自動車
EUが2035年以降のガソリン車販売を認めないと決議したことで、世界の自動車会社が動き始めました。日本はハイブリッドの開発で世界をリードしていたのですが、EUのこの決議は,日本企業との競争も意識したものといわれています。
三宅さんの説明は、しかし、「軽四輪EV(電気自動車)」は可能かとはじまりました。日本の自動車の4割を占めているのが、軽自動車です。扱いやすい。税金も安い。細い田舎道もそれなりに走れる。近頃は、「遊べる軽」と銘打って、機能性では普通車に劣らない性能の面白いのまで売り出されています。
だが、EV車化するとなると、軽(ばかりではないのだが)の寸法制限が大きな問題になります。また、軽であるが故の「安価」さにも負荷がかかるので、全部の車をEV化するというのは、ムツカシイというのが、三宅さんの見立てです。
車両側のフロアパネルを変更せずにLEJ(リチウムエナジージャパン)製の大容量電池パック(重さ230kg、縦1m×横2m)を配置すると考えた「EV用リチュウムイオン電池」を図示して説明する。リチウムイオン電池の単体(セル)88個組み込んだものがひとパック。これを二パックも組み込むと、普通車の床下は電池だけでいっぱいになる。軽では寸法に収まらない。
ミヤケさんは、EVのエネルギー消費について、まず勘違いをただす。通常電気自動車がCO₂排出ゼロと言われているのは、車のtank,つまり電池から車輪までのことを指している。だが、その充電する電池が化石燃料を使用しているとしたら、「tank to wheel」ではなく、石油発掘の油井から車輪を回すまでのCO₂排出量を算出しないと、公平ではない。「well to wheel」を区別するよう促す(とはいえ、車両本体の全部を生産するのにどれほどのCO₂を排出するかまで計算しようとすると、複雑な工程が関わってくるから、とりあえず、車輪を回すことだけに限定して、EVとガソリン車とハイブリッド車の比較をしている)。表にすると次のようになる。
「well to tank」 + 「tank to wheel」 = 「well to wheel」
電気自動車…… 42.9% 66.5% 28.5%
gas HV …… 82.2% 30.2% 24.8%
ディーゼル車… 88.6% 17.8% 15.8%
ガソリン車…… 82.2% 15.1% 12.4%
gasHVというのは、ガソリンハイブリッド。
各車の「well to tank」は油井から精製・輸送・発電・送電を指す。
「tank to wheel」は走行効率。
それらの合計「well to wheel」が熱効率ということになる。総合効率は、電気自動車が最高となっている。
それをCO₂排出量で較べると、電気自動車はガソリン車の1/3、72%の低減となる。1台当たり年間1万㌔走行の場合のCO₂削減量は約1トンとなる。gasHVの1/2だ。
各国の発電における「火力発電の占める割合」と「CO₂排出の関係」をグラフにした「EVモード走行時の電力を充電する際のCO₂排出量(発電時の電力構成比とCO2排出量)」をみせる。火力の占める割合は、フランス、ブラジルの10%を最低に、カナダ、ペルー26,27%とつづき、45%ウクライナと間が開いている。日本は「世界平均約68%」よりは少なく「53%」ほど。チリやブルガリアと同じ程度。80%を超えているのは、イタリア、中国、インド、インドネシアと高くなり、93%のタイ、マレーシアと多くなり、98%ポーランドと火力依存が高くなっている。
CO₂排出量は火力依存が低いほど低く、高くなるほどおおむね排出量が多くなる。おおむねというのは、(たぶん)車社会化の度合いがどの程度かによって、排出量が増減するからであろう。もしCO₂だけに焦点を合わせると、化石燃料から離脱することが、ひとつの道となる。フランスが低いのは原子力発電が圧倒的だからであり、ブラジルが低いのは、水力発電が主力を担っているからである。
つまり、電力が何に依存して作り出されているかを問わなければ、CO₂排出削減という課題にはなかなか結びつかないのである。(つづく)
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