2022年12月5日月曜日

言葉にならぬ周縁

 何かを感じ取っているのに、それが言葉にならない。人の心の奥底の感覚器官の一番要にあるものが、ひょんなことで露出して、おっ、と思ったのに、おっ、のまんまに胸中にとどまって、なかなかほぐれない。昨日一日、その状態が続いていた。今朝もまだ残っている。

 そのまんまに、今朝は片道5㌔を歩いてリハビリに行く。曇りの予報だが、ちょうど我が町の上の空一面に、今にも雨になりそうな黒っぽい雲が広がっている。外へ出てとって返し、折りたたみ傘をリュックに入れる。12月らしい寒さが頬に当たって姿勢が少ししゃっきりする。

 向こうから秋田犬を散歩に連れ出した人がやってくる。秋田犬が私をみているようで、私もそちらへ目をやる。目が合った。横を通り過ぎると、秋田犬が立ち止まり、リードを曳いたご主人が先へ行くのを引き留めるように私を見つめている。私もたちどまり、よっ、と声をかける。リードがピクピクッと引かれて、秋田犬は体の向きを変えた。なんかちょっと、言葉を交わしたような感触。でも彼奴は私の何に反応したのだろう。リードを持っていた秋田犬のご主人が女の方だったか男の人だったか、年寄りだったか若い人だったか、私の記憶の中に全くないことに、行き過ぎて暫くして、気づいた。

 霧のような雨。着ている軽い羽毛服をみると、表面に小さな雨粒がポツポツとついているように見える。降ってきたというより、雲の中を私が通り過ぎているように思う。せっかく持って出たのだからと、立ち止まり、リュックの中の折りたたみ傘を出して、開く。どっちでもいいが、荷にならない。前方で信号待ちをしている人は傘を差していない。

 信号を渡り、幹線道路を外れてお寺の脇を進む。向こうからやってきた、黄色い傘を差した4歳くらいの女の子が立ち止まって母親を見上げ、「ホラッ差してる人がいたぁ」と声を立て、私ににっこりと笑いかける。私もつい、頬がこぼれる。

 病院は、こんな天気だのに結構人が多い。駐車場入りを待つ車が順番待ちをしている。この地域の中核病院だから、救急患者も運び込まれているが、全部予約受診の人だから、晴雨に関係なく来ないわけにはいかないんかもしれない。リハビリを終えて支払い場所も機械処理の順番待ちの人がたくさんベンチに腰掛けている。正面の表示画面に、朝、やはり機械受診で受けとった受付番号が表示される。表示画面には20~30人くらいの番号が表示され、5台の機械で支払いが済むと表示は消える。ピョロンと音がして、新しい番号が加わる。

 支払場所の近くに、チェックの制服にベストを着けた女性職員が、ずうっと立っている。デジタル処理になれない患者がオロオロするのを手助けする。5台全部に誰もとりついてないこともある。と、その女性職員がさかさかと1台の機械に近寄り、中央部から何かをつかみ出して、駐車場への出口の方へ走る。ちょうど私が待っている場所からその出口が見通せる。その職員は名前を呼びながら一人に駆け寄り、振り向いた女性に手の平の中の何かを渡している。お釣りを取り忘れていったようだ。デジタル対応ってだけじゃないんだ。

 今日は今月最初の受診だったから保険証の確認が必要であった。支払い割合が変わった十月初めはずいぶん時間がかかった。今日は20分くらい。いつもの倍くらいかなと思いながら、病院を後にした。

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