2022年8月15日月曜日

線路は続くよ、何処までも

 トランプ前米大統領が国家安全保障の機密文書を持ち出していたとして今月8日、FBIの強制捜査が行われ「家宅捜索では最高機密指定を含む11件の機密文書が押収され」たと報道された。そろそろ勝負あったとかと思った。

 ところが昨日(8/14)の「現代ビジネス」ニュースで、元国家安全保障会議補佐官が、「どの文書も機密解除されたもの」と発言し、共和党下院議員が「トランプ政権は沼のドブさらいをしていたのだ」とトランプ支援のツイートをし、ポンペオ前国務長官が「(バイデンは)政治武器化している」と強制捜査を非難している、と報じた。いつものトランプ流のフェイクづくりと言えば言えなくはない。

 だがそのなかに私は一つ感心した言葉を見つけた。「沼のドブさらい」という共和党下院議員の台詞。そうか、トランプ支持派の人たちは、そのように受け止めているから、トランプが大統領在任中の傍若無人の振る舞いをも、そりゃあ仕方ないでしょうとか、当然ですよそれくらいとおもって受け容れることができたんだ。つまり常軌を逸した言動が全面的に容認されるには、根柢的に何かをひっくり返したいんだという「意思」を市井の民には伝える必要がある。逆も言える。鬱屈を晴らそうとする庶民は、何をどうしたらいいかはわからないが、根柢的に何かをひっくり返したいという欲望を持っている。何をどうしたらいいかは、よくわからないし、これだけ大勢の人間を率いるのであれば、その子細は少々どうなっても構わない。既得権益者にツバを吐きかけるだけでも気晴らしにはなる。トランプの我が儘な振る舞いは、あたかもそうした天の命革まるような気分をもたらしてくれた。それまでの為政者の綺麗事が口先だけだと非難するのに、「沼のドブさらい」という言葉ほど、的確な名言はない。

 ポンペオ前国務長官は「メール問題を起こしたヒラリー・クリントンに対してさえ強制捜査はしなかった」と共和党政権の寛容さを示し、バイデン政権の「政治武器化」と非難している。つまり、民主党政権ばかりか既得権益に乗って民主制のフィクションをタテマエ衣装にしている連中を根こそぎ入れ替えてしまうには、「沼のドブさらい」という表現ほど、包括的且つ的確にドラスティックな転換を促す言葉はない。ほとんど「超法規的」と訳知り顔の知識人が遣いそうな言葉をも吹き飛ばして、トランプのやったことを許容し、それに期待する気持ちを体現している。巧いなあ。たぶん、トランプ応援下で下院議員になったのだろう(と勝手に推測しているが)この議員は自身も心底そう思っているから、去年1月の議会襲撃だって、厭わなかったに違いない。

 むろん民主党サイドもFBIに対して、押収した「機密文書」の価値評価を提出せよと要求してトランプ派の息の根を止めようとしているから、アメリカの「分断」はそう簡単には終わらない。♫線路は続くよ~どこまでも~♫ ってワケ。だが、これまでの約束事を全部チャラにしてもいいと思わせる心的契機が、こんな簡単な言葉に宿っているとは、思わなかった。

 これは実は、ワタシ自身の身の裡に淵源を持つ感性である。それが身の裡でリアルに響くのは、なぜか。そう自問する。眼前の綻びだけを縫い繕いして状況をすり抜けてきている日本の政治に、いい加減嫌気がさしていることに起因していると、自答している。

 現政権お気に入りの広報会社・電通マンたちの取り仕切る言葉を含めたコマーシャリズムの綱渡りショーは、こういうことに達者なんだろうね。お笑いもそうだが、ほんのちょっとしたフレーズが、人の心を揺り動かしてリアリティの受け止め方を変えてしまう。それは、そう揺さぶられ、笑っている感性をベースにして人は、自身の意識を整え、アイデンティティと(マッチすると瞬時に判断して)意見を形づくっているからなのだ。アタマがヒトの意思を体現すると考えていると、とんでもない見当違いをしてしまう。電通の手練手管に操られる私たち庶民は、そう覚悟する決断がいる。

 その感性部分への突撃、侵入・浸入、浸透こそが、人の心持ちを動かす(操作する)政治的手腕と、現代政治学では位置づけられるに違いない。人々は自律的主体性を何よりも重んじている。その人たちが、いつ知らず、我知らず、世情に移ろう言葉によって感性を刺激され、薫陶を受け、自ら進んで意思形成をしていく。その人というのが実はワタシなのだとわかった地点から、いつでも話しははじめなければならない。そう痛感した「つづく線路」の話しでした。

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